侑「違うよ(即答)」:アニガサキの神演出を考察【11話 ゆうぽむ】

2021年になりました。心機一転したいところですが、相も変わらず新型コロナで厳しい社会情勢が続いていますね。静かな年末年始を過ごしてほしいということで、引きこもってはいましたが、ラブライブ!虹ヶ咲のアニメ(アニガサキ)を見返して、気になったところをあれこれと確認してました。

アニガサキは、よく指摘されているように、何気ないと思われる場面やオブジェにその場の状況や空気、後の展開の伏線が示されている演出が多くあります。

・標識(道路標識、非常口標識)
・道路信号
・スマホの表示時刻
・ユニコーンガンダムの形態

など、キャラの会話やモノローグといった言語以外で、状況を暗示する演出が多用されているのが大きな特徴です。

初代やサンシャインのようなラブライブ! らしいアイドルアニメというより、プリンセス・プリンシパルみたいな伏線の多い考察アニメに近いと言っていいくらい。上原歩夢を演じる大西亜玖璃さんが指摘されてたように小説の情景描写にも近い特徴です。特に歩夢の心情を中心にその演出が多用された11話~12話は、もはやラブライブ! ではない別アニメのように見えました。

前述した、オブジェによる状況説明などの細かい作りこみもすごいなと思いましたが、もちろん、キャラの心情やコミュニケーションにおいても、言葉によらない描写で伝えている秀逸な場面があります。

中でも、特に印象的だったのが、第11話のこの場面

侑「違うよ。(即答)」
侑が歩夢に対して神速で即答し、それまで歩夢が抱えていた不安とモヤモヤを全て吹き飛ばしてくれた、あまりにもイケメンすぎな名場面ですね。ただ、同じくらい光っていたのはこの後の演出でした。それについて、取り上げていきたいと思います。

侑「違うよ」までの経緯

例の11話のシーンを語る前に、それまでの経緯についておさらいしておきます。この「違うよ。」は歩夢に「(私より)せつ菜ちゃんの方が大事なの!?」と詰め寄られた際の回答でしたが、歩夢が侑にこのように問いかけることになった、発端は第10話まで遡ります。

第10話「夏、はじまる。」
一学期が終わり夏休みを迎え、同好会ではこれからのことを考えて合宿を行うことになった。翌日からの練習に備えて休むつもりが初めての合宿に浮かれ気分の一同。そんな中、侑はやりたいことを見つけていくみんなをどこか羨ましく思っていた。その夜、音楽室で1人ピアノを弾いていた侑の元に訪れたせつ菜から、いつか侑さんの大好きを応援させてほしい、と励まされる。そこへ偶然通りかかった歩夢は笑顔で話す2人に声をかけることができなかった。

ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 10話
©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

ここの最後のところですね。ここは、せつ菜が足を躓いてしまいそれを侑が抱き止めた後、2人が寄り添っているかのように見えるところを、歩夢が目撃して何やら誤解してしまう場面でした。密会?お忍びデート?どう誤解したのかは分かりませんが、大好きな幼馴染が他の娘と、とても親密な関係になっているように見えショックを受けていたのは、直後の絶望顔から明らかでした。

この件については後の第11話で、せつ菜に「あの日、合宿の日、せつ菜ちゃんは侑ちゃんと何してたの?」と直接尋ねるのですが、せつ菜は「音楽室でピアノ弾いてらしたので、少しお話しました。」と気さくな感じで答えます。

嘘や隠し事をしている様子はなく(そもそもせつ菜はそんな事する性格ではないですが)、せつ菜が侑に気がありそうな感じもしなかったので、あれはアクシデントだったというのは分からなくとも、その辺りの誤解は歩夢の中である程度解消されたと思います。もっとストレートに「なんで寄り添ってたの?」と聞いて事実を知れば誤解がさらに解消したと思いますが、人に気づかいし自分を抑えがちな歩夢の性格上それはできないでしょう。(仮にここで誤解が大きく解消できれば、後のクライマックス(?)の爆発までのモヤモヤも溜まらないでしょうし。)

が……歩夢「私、(侑ちゃんのピアノの事)知らない……」
ここでまた新たな疑いが侑に対して生まれることになります。あのとき寄りかかっていたせつ菜の方にその気はなかったとしても、侑の方はどうだろうか?さらにピアノという新しい「好き」を見つけたという大事なことを、自分の知らないところでせつ菜にはずっと前から教えていた……

かつて夢を一緒に見てくれる、ずっと隣にいてくれると、自分の事を大事に思ってくれてたはずなのに……自分の事を、自分だけを見てほしかったのに……侑にとって、せつ菜は自分より大事な存在なのか?という思い込み、不安、猜疑心が増していきます。色んなモヤモヤをもっと早く侑に話しておけばよかったのでしょうが、優しい余り溜め込んじゃうタイプの歩夢にはそれができなかったのでしょう。

その後、侑に呼び出された歩夢は……

侑「歩夢が家に来るの久しぶりだね。」
歩夢「そうだね……は!?……」
侑「ああ、これ? 少し前から練習してるんだけど、全然上手くならなくて。」
歩夢「……」

侑「あのね。歩夢に話そうと思ってた事があるんだ。ただ自分でも自信が持てなくて。もっと弾けるようになってからって思ってたら、時間経っちゃってさ。」
歩夢「それってピアノの事?」
侑「え? うん、それもあるんだけど。」

歩夢「だったら、どうして、せつ菜ちゃんには教えたの? 私には言えなくて、せつ菜ちゃんには……!」
侑「え? 何でせつ菜ちゃんが出てく」

歩夢「せつ菜ちゃんの方が大事なの!?」
部屋の電子ピアノを確認した歩夢。それについて(それだけではないのですが)今更話そうとする侑に、歩夢はこれまでのモヤモヤも限界に達してしまい、裏切られたかのような怒りを交えて爆発してしまいます。

この一連のシーンもよく指摘されますが、意図的に歩夢の表情を隠して、怒りを溜めているのがうかがえたり、最後に歩夢が侑に詰め寄る際に、画面が揺れ動き歩夢の不安を表現するなど、歩夢の心情描写がカメラワークでよく演出されています。

何よりも、最後の歩夢の鬼気迫る表情……こんな歩夢はこれが最初で最後かもしれませんね。自分はこんな感じで迫られたら、流石に動揺しちゃうな(苦笑)
ですが、一方の侑は流石としか言いようがなかったです。歩夢がこれまで溜め込んでいたモヤモヤを全て吹き飛ばしてくれました。

侑「違うよ」…からの以心伝心の演出が光っていた

侑「違うよ。(即答)」
「せつ菜ちゃんの方が大事なの!?」と歩夢に詰め寄られて、1秒あるかないかのうちに即答で断言する侑。あまりにもイケメンで、これで悪い流れが断ち切れて「勝ったな」と思った方は多かったと思います。(それを後でひっくり返されるのですが……)

この場面は、侑の冷静だけどはっきりしたイケボもそうですが、揺れ動きながら歩夢を映していたのとは対照的に、少しスライドした後ピタッと止まって侑を映すカメラワーク演出も、侑のブレない強い気持ちを表現するのに効果的でした。

そして、この真剣な目と毅然とした態度……本気が伝わります。

【2021/3 補足】
侑を演じる矢野妃菜喜さんによると「違うよ。」は最初はもっと優しい調子で言ってたようですが、「そこを優しく返すのは、実は優しさじゃない」ということで少し強い感じの返し方になったそうです。(電撃G's magazine 2021年3月号より。)そう、ここは「優しさ」より「本気」を見せるのが「本当の優しさ」だと自分も思いますね。

歩夢「!?」
まっすぐ歩夢を見ながら微笑んでる侑と、疑いをはっきり否定されてやや驚く歩夢。

そして2人の間で輝きを放っている月光。この月光の演出も、侑の曇りのない正直な気持ちと、歩夢の中の侑に対するモヤモヤした疑いが晴れたことを暗示している情景描写に思えます。暗い部屋で照明もつけないのは本来不自然ですが、それはシリアスな雰囲気作りだけではなく、月光によるこのような演出を活かす狙いもあったのでしょう。

先の真剣な表情から一転して、今度は歩夢に優しく微笑みかける侑の顔。よく「目は口ほどにものを言う」「目は心の窓」と言いますが「そんなことないよ。安心して。」と優しく語りかけるような眼差しです。

先の真剣な目や動揺のない態度も含めて、嘘偽りない本心を伝えていることが分かります。切なげだけど、どこか優しいピアノのBGMもより一層それを引き立てていますね。(ただし顔半分が暗くなっているのは、後に語られる歩夢にとってまだ知らない、そして恐ろしい「先のこと、侑の夢のこと」が控えていることを示している?)

「違うよ。」の後、感情的になって反論したり「どうしてそんなことを聞くの?」と聞き返したりせずに、歩夢を安心させようと優しくする侑。これも歩夢が相当に追い込まれているのをちゃんと理解した対応かなと。いかに歩夢の事を大事に思っているかが分かりますね。

歩夢も侑の本心が分かり、「違ったんだ……」と安心したように表情を和らげます。合宿の夜にせつ菜と寄り添って談笑していたことはともかく、ピアノの件をせつ菜に先に教えていたことにさえ事情を明かされていないにも関わらず、これまでの疑いが全部晴れたように安心する歩夢。

幼馴染として培ってきた信頼関係もあるでしょうが、それだけ「せつ菜ちゃんの方が大事なの?」に対する侑の本気の答えが、目と態度でも伝わったのでしょう。そしてそれは歩夢が安心する答えだったに違いありません。こういう時って余計な言葉や言い訳なんてなくても誤解が解けるから不思議ですよね。

もっとも、こんなに迷わず本気で言い切ってくれて、落ち着いた態度で微笑みかけてくれる侑に対して、せつ菜との件をさらに問い詰めるなんてことは、自分が歩夢の立場でもできませんがね。逆に「変なこと聞いて……疑っちゃってごめんなさい。」と謝るかも。

侑を信じたいし、これ以上疑うのは彼女を傷つけてしまう……自分が思い違いをしていて、侑の方は何か事情があったのだろうと歩夢も察したのでしょう。(実際にその通り、偶発的な事情がありました。)何よりこれまでのモヤモヤと疑いをはっきり否定してくれたことが歩夢にとって大きな救いになったと思います。侑とせつ菜との話は、歩夢の中ではもうここで終わったのかなと。

ここまで色んなモヤモヤを溜め込んで遂に爆発してしまい、不安で仕方がなかっただろうけど、ここはよく侑の事を信じてくれたなと思います。溜め込んじゃうけど、本質的には優しくて純粋で人(特に侑)を思いやることができる。そして誰よりも侑の事を知っている彼女らしい場面です。

侑の方も、なぜ歩夢がせつ菜の話を持ち出してきたのか、詳細な経緯については聞かなかったですが、歩夢がピアノの事(先にせつ菜がそれを知っていた事)で、自分の気持ちを誤解していることはすぐに分かったようです。それを解くためにはっきり否定しました。そして歩夢の誤解と不安が解けたのは彼女の安心した表情をみてよく分かったと思います。侑もここはそれで十分だったのでしょう。

侑の「違うよ。」からこの間、一切セリフがないやや長い間でしたが、このように、侑と歩夢の以心伝心のやりとりを、目・表情・態度、月光、BGMの演出を使って視聴者の方にもそれとなく伝えているのがすごく秀逸でした。

「誰の方が大事か?」なんて事については人前で答えづらいものですが、侑の中にははっきりした答えがあり、それを躊躇なく言えるほどの本気の想いがありました。「歩夢より大事な人なんていない。」……その事を目で伝える侑と、それを理解して信じる歩夢のやりとりがとてもよかったです。この2人には自分の理解を少し超えたような関係がある気がします。やっぱり「ゆうぽむ」は幼馴染なんだなって。

11話はこの後に続く、例の押し倒しシーンが衝撃で話題が集まりましたが、「違うよ。」からの演出も注目すべき見どころだと思います。余談ですが、自分の部屋にも電子ピアノがあるので、それを見る度にこの一連のシーンを思い出しちゃいます。

侑「違うよ」の意味について

あと侑の「違うよ。」の意味の解釈について触れておきます。台詞だけをみると、「違うよ。」のあとにつづく「歩夢に伝えたかったのは、もっと、先の事。」という流れから、
「(せつ菜ちゃんの方が大事とか、そういう話を伝えたいのとは)違うよ。」
という意味で解釈をされてる方も、SNSや感想サイトで見かけました。

しかし、アニガサキは標識などのオブジェもそうですが、情景描写によってその場の空気を伝える演出を多用する特徴があります。(一般的にアニメはそういうものでしょうが、アニガサキは特に顕著です。)台詞のないシーンの中にも何らかの意味や隠れた台詞があると思っていいです。「違うよ。」からのやや長い間にある、侑と歩夢の様子や月光などの情景描写をよく見て解釈する必要があるのではないかと。

話が少しずれますが、そもそも侑は相手の発言に的確に答えられるコミュ力の持ち主です。相手に対して話をそらすことなく、ちゃんと向き合って答えようとする素直で誠実なキャラとしてこれまで描かれています。ましてや幼馴染の歩夢に対してであればなおさらでしょう。先の情景描写や以心伝心のやりとりも踏まえて、「違うよ。」は素直に「せつ菜ちゃんの方が大事なの!?」に対する純粋な答えとみていいです。そうでなければ、歩夢があのような安心した表情を見せるはずがありません。

突然聞かれてもすぐに「違うよ。」と即答したのは、それは侑にとって、当たり前というか絶対に譲れない想いに関わる話だったからでしょう。たとえて言えば「あなたは〇〇〇推しですか?」と推しメンを間違えられて尋ねられたとき、あなたはどういう反応をするでしょうか?……それと同じです。(昔から同じようなことがあったから慣れてたという見方もあるかもしれませんが、劇中で描かれていないのでそこは何とも言えませんw)

侑にとって一番大事な人、自分の夢を(ピアノの事も)一番に話したかった人は「せつ菜」ではなく目の前にいる「彼女」でした。1話で自分の中の何かが始まりそうだった中、せつ菜がスクールアイドルを辞め同好会も廃部となってしまった。でもずっと一緒にいる「彼女」が勇気を出してスクールアイドルの夢を歩み出してくれたことで自分の夢も始まった。自分も何かやってみたくなった。

「彼女」の夢を一緒に追いかけて応援してきて今の自分がいる。同好会が復活して大きくなり、自分にもできる事、スクールアイドルフェスティバルをやってみようと楽しんでいる。「彼女」のおかげで自分の夢……音楽とピアノを見つけることができている。(この辺りは10話、12話、13話で侑が話しています。)

そんな「彼女」……歩夢はとても大事な娘。自分の夢を一番伝えたかった娘。歩夢より大事な人なんていない。いま歩夢がピアノの件でその事を疑っているならそれは誤解だ。

だから侑は「違うよ。」と即答したのです。誤解と不安に苛まれる彼女のためにもそこははっきり伝える侑。その意思は直後の歩夢の安心した表情、何より先の12話のエピソードを見ればよく分かります。自分の部屋に、幼い頃の彼女との写真を飾っているところも見逃せない点ですね。1話でスクールアイドルに夢中になる以前から、ずっと大事な家族に近い存在なのでしょう。2人の関係は、この後に控えているさらなる試練を乗り越えて、12話の最後でより深化することになるのです。

【2021/4 追記】
アニメ時空を舞台とした公式小説の一つ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 素顔のフォトエッセイシリーズ03 Rainbow Days~歩夢・しずく・果林~」の歩夢編では、アニメ13話のSIF以降と思われる後日談が描かれています(実質アニメ14話?)。侑が歩夢の事をどれほど大事に想ってくれているかが、ここでもよく窺えます。興味がある方はぜひ手に取って確認されてください。



11話の侑「違うよ。」と神演出の話はここまでですが、せっかくなので、後の12話についても歩夢の心情などの考察を別記事で書き連ねました。

「ゆうぽむ」はもう結婚していい!尊い!歩夢の心情描写と1話との対比が見事【アニガサキ12話 考察】

あまりまとまった考察や感想ではないですが、興味があればご覧いただければと。

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